8月29日~31日に行われた、大阪市立大学文学部特別授業「上方文化講座2007」を受講してきました。
「大阪落語への招待」同様に応募者多数で抽選となり、一般受講者70席の予定が倍の応募があって急遽100席用意したとのことでした。選にもれた方もいるのですから受講できたことはラッキーでした。
2004年からスタートし、昨年まで文楽の近松作品をとりあげてきたこの講座、今年のテーマは「菅原伝授手習鑑」です。寺子屋の段についてさまざまな角度から紐解いていきます。
浄瑠璃の歴史はもとより、“身替り”という観点から文楽とは直接関係のない中国演劇の身替りの解説があったり、“言語”の観点から江戸前期と現代の待遇表現の違いについて、近世大坂の芝居町についての考察(研究は未進展だそう)、近世における寺子屋教育の実際など、「菅原伝授手習鑑」について何も知らない私は、何の説明だろうと思いながら聴いている部分もありましたが、2日目、3日目と徐々に内容がつながっていくのが実感できました。

2日目と3日目の午後は、技芸員さん(太夫の竹本津駒大夫さん、三味線の鶴沢清介さん、人形遣いの桐竹勘十郎さん)のお話と実演があって、この時間は本当に楽しかったです。
津駒大夫さんのお話で興味深かったのは、太夫のお稽古は三味線の師匠につけてもらうことが多くて、太夫が太夫を教えるより三味線が太夫を教えるほうが伸びるということ。語りにはいろいろな型があるが、太夫は自分のやり方がいちばん正しい、これしかないと思ってしまう、自分のやり方の押し付けになってしまうんですね。
清介さんがおっしゃっていましたが、三味線の師匠は太夫の声のトーンや性格をみながら「じゃ、あなたはこの型でいきなさい」と指導できるとのこと。太夫はスターであって、スターは後進を育てるには向いていない、例えば、美空ひばりには弟子はいない、美空ひばりのようになりたい人は作曲者に習いにいく、太夫と三味線はそのような関係なのだそうです。
人形遣いのお稽古については勘十郎さんが、稽古はやってもらえないとおっしゃっていました。お稽古の時間というのはなくて、入門後に日頃の舞台をみながら自分自身で蓄積していくんだそうです。人形は、中心となる主遣いと、左手を担当する人、足を担当する人の3人で動かしますが、下働きのときにそれぞれの操作方法、芝居の流れや段取りを覚えていき、役がついたときにはできるようにしておかないといけないという、なんともきびしい世界です。
歌舞伎と違って世襲制ではない文楽の世界、この世界に入ったきっかけもまた興味深いお話でした。
太夫の津駒大夫さん(昭和24年生まれ)は、法律家を目指して大学にすすんだものの落ちこぼれ、法律家には向いていないと鬱々としていたときに、たまたまテレビで文楽をみて、こんなおもしろいものがあるのかとすぐに劇場に問合せ、運よく師匠を紹介してもらえ、そのままこの世界に入られたとのこと。それまで文楽のことをまったく知らなかったというから驚きです。何かのお導き?
三味線の清介さん(昭和27年生まれ)は筋金入りかもしれません。中学生のときに図書館で岩波の浄瑠璃集をみて興味を持ち、ラジオで名人の演奏を聴いてこんなおもしろいものはないと思った、ラジオを録音して繰り返し繰り返し聴いていたんだそうです。高校生になって親に三味線をやりたいとお願いし、習えるところを探してお稽古を始める。大学に入ってアルバイトなどをするがカタギの仕事(普通の仕事?)がどうも自分には合わないように思った。易者にみてもらうと、女の子やったら芸事が向いているといわれ、やはり自分には三味線が向いているんだと三味線の師匠に紹介してもらい入門したとのこと。中学生の頃から浄瑠璃に興味を持つなんて少数派でしょうね、きっと。
人形遣いの勘十郎さんは、父親の代から人形遣いで、子どもの頃からおもしろそうだなぁとは思っていたが、世襲制ではないので自動的にこの世界に入ったわけではなく、昭和41年5月の公演で27名しか人形遣いがいなかったときに10体の人形を動かさなくてはならなくて(1体に3名必要だから30名は必要)、手伝いに行ったところ自分にあっているのではないかと思って入門したとのこと。自分にあっているものが身近にある環境って幸せですね。
その他、太夫と三味線はどちらがえらい? 役は誰がどうやって決めるの? など、受講者からのするどい質問にも丁寧に答えてくださいました。
来年の講座は「義経千本桜」を予定しているそうです。興味のある方は、来年の7月頃に大阪市立大学文学部のページに募集要項が掲載されると思います。文楽に興味のある方もない方も、この講座をうけると文楽をもっと知りたいと思うようになりますよ!
また、2004年の講座「曽根崎心中」については、講義内容をまとめた本「上方文化講座 曾根崎心中」が和泉書院から出版されています。
そして、タイミングのよいことに、国立文楽劇場の11月の公演は、午後の部に「曽根崎心中」が上演されます。
太夫の迫力ある語りと、顔が動くわけではないのになぜか表情豊かにみえる人形の動きを、ぜひ劇場に足を運んで体感してみてくださいね。文楽っておもしろいですよ。
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